なぜサクセスケースメソッドか
The Success Case Method(SCM)は,方法論としては未だ発展の余地があるが,少なくともその考え方やアプローチは従来の研修プログラムの効果測定・評価では補いきれていない部分を枠組みに組み入れている(Brinkerhoff, 2005)。
主な違いは,従来の研修効果の測定・評価は「研修そのもの(“training only”)がどの程度,パフォーマンス向上に寄与するのか」に着目するのに対して,SCMでは「研修+研修以外の個人・組織要因(“training and non-training factor”)がどの程度,パフォーマンス向上に寄与するのか」に着目する点にある。
従来の研修効果の測定・評価では,例えば,カークパトリック(D. Kirkpatrick)の4段階モデルにあるように,「反応(Reaction)」→「学習(Learning)」→「行動(Behavior)」→「結果(Results)」というレベル別に研修参加者への効果が概念化され,それに準じた測定が試みられる。またフィリップス(J. Phillips)の測定モデルでは,5段階目として,「投資対効果(ROI: Return on Investment)」が追加されている。いずれにせよ,ここでは「当該研修が参加者に及ぼす効果の有無や多寡」が評価クエスチョンとなる。
しかしSCMの枠組みは,果たして研修自体の純粋効果(例:参加者のパフォーマンスの向上)を評価することにどれほどの意義があるのか,という立場を立脚点としている。研修自体の効果を評価するとは,Brinkerhoff(2005, p. 87)の例えによると,どのような「結婚式(=研修プログラム)」をすれば,その後の「結婚生活の質(=パフォーマンス)」が向上するか,を評価しているようなものである。SCMは,研修(の効果)のみを評価の対象とするのではなく,研修を含むすべての組織要因が参加者(例:働く個人)に及ぼす影響を評価することをゴールとする。その1つの視点として,参加者がいかに研修プログラムで得た知識やスキルを「活用」しているか,を評価の対象とする。SCMによる評価において,評価をすること自体が,組織のキャパシティビルディング(あるいはエンパワメント)となるとされるのも,この活用の有無・多寡に焦点を当てているからに他ならない。方法論的に困難な部分も多いが,本来の評価のあり方を模索するためのよい枠組みになるのではないか。(参考:インタビュープロトコル)
Brinkerhoff, R. O. (2005). The Success Case Method: A strategic evaluation approach to increasing the value and effect of training. Advances in Developing Human Resources, 7, 86-101.
ディスカッション: 「研修プログラム」と「パフォーマンス」の矛盾を考えるうえで参考になる他の例は何か。