コミュニティ心理学における変化・変革の捉え方
変化・変革(チェンジ)の視点
アクション志向が強い実践研究と聞くと,アクションリサーチ(action research)を想定することも多いだろう。実際,コミュニティ心理学のなかにもアクションリサーチによる研究が数多く存在する。それは,コミュニティ心理学者がアクションの前後におこるコミュニティや社会の変化・変革,つまりチェンジ(change)に関する研究課題に関心を寄せるためである。
アクションリサーチの生みの親である社会心理学者K.レヴィンは「理論」に関して,「良い理論ほど実用的なものはない(There is nothing so practical as a good theory)」という名言を残している。しかしコミュニティ心理学は,「変化」に関する彼のもう一つの名言「物事を理解するうえで最良の方法は,それを変化させることを試みることである(The best way to understand something is to try to change it)」に特に着目する。
個人を取り巻くコミュニティの文脈や社会システムが変化すれば,当然,その中にいる個人に変化がもたらされることになる。レヴィンの発想は,コミュニティに存在する多様な規範や仕組み,社会ネットワークなどを変化させようとする際(変化させた結果),個人やグループにもたらされる(もたらされた)変化・変容は何かを評価することによって,そのコミュニティの意義や価値が自ずと明らかになることを意味している。
したがって,コミュニティ心理学の実践研究には,諸々の変化の“事前・事後”にコミュニティにどのような“摩擦”や“問題”が生じると考えられるか,そしてそれがコミュニティに生きる個人にどのような肯定的・否定的変化をもたらすのか,を問うリサーチクエスチョンが重要となるのである。そして,その問いに基づき,具に調査・観察することが効果的な方法論となるのである。
コミュニティと言っても多種多様であるが,どのコミュニティにも当事者である個人を含む様々な利害関係者(ステークホルダー)や行為・行動の主体(エージェント)そしてそれらをつなぐ関係性やシステムが必ず存在する。そして特に,個人の不適応の予防やウェルビーイングの向上などを目的としたコミュニティのあり方が問われるとき,仮想的にでもそれらを「変化させる試み」に軸足を置いた実践研究が,本来のコミュニティの姿を理解するために有用であり,そして,より大きな変化であるソーシャル・チェンジ(social change)のあり方や方法論を検討することにつながるのである。
安田節之(2016,出版予定) コミュニティ心理学の独自性とは 日本コミュニティ心理学会 研究委員会 編 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」 新曜社