コミュニティ介入
この“心理的なつながり”からコミュニティ心理学の学術体系を構築したのがS.サラソン(Sarason)である。彼はそれを心理的コミュニティ感覚(Psychological Sense of Community)と呼び,「他者との類似性や相互依存的な関係性の認識,またその関係性を維持するために自身が他者からしてもらいたいことを率先して行う意思,そして自身が依存可能で安定した大きな構造の一部であるという感覚」[1]と定義した。
特に,個人が“依存可能(dependable)”で“安定(stable)”した大きな構造の一部である,という感覚をコミュニティに抱けることは,一人ひとりがバラバラに生きている訳ではないことを認識するうえで欠かせない感覚となると考えられる。そしてそれは,現代社会で最も欠如している可能性が高い感覚であるとも言える。
では,どのようにこのコミュニティ感覚を育み,そして最終的に個人のウェルビーイングの向上につなげるのか。これまでみてきたように,コミュニティ心理学が「個人からコミュニティ」ではなく,逆に,「コミュニティから個人」というアプローチをとることを鑑みると,ここでも同様のロジックが当てはまる。
それが,「健全なコミュニティ(healthy community)を創造し,そのコミュニティの資源や力に頼ることにより,健全な個人(healthy individual)を育てる」[2]という基本理念に基づいたコミュニティ介入(community intervention)という考え方である。従来の心理学および心理援助が,個への支援を主たる介入として専門的な発展を遂げてきたことを踏まえると(例:臨床心理的介入),コミュニティへの介入理論や研究方法の開発は,コミュニティ心理学における実践研究で最もその発展が急がれるテーマであると言えよう。
[1] Sarason, S . (1974, p. 157). The psychological sense of community: Prospects for a community psychology. Jossey-Bass
[2] Hill, J. (1996). Psychological sense of community: Suggestions for future research. Journal of Community Psychology, 24, 431-438.
安田節之(2016,出版予定) コミュニティ心理学の独自性 コミュニティ心理学会 研究委員会 編 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」 新曜社