エンパワメント

Riger, S. (1993). What’s wrong with empowerment. American Journal of Community Psychology, 21, 279-292.

コミュニティ心理学におけるエンパワメントの古典的な論文。エンパワメントのパワー概念(所謂,「タテ概念」)と当該分野のもう一つの重要概念であるコミュニティ感覚(sense of community)における共同・協働・協調(所謂,「ヨコ概念」)とが,同じ学問領域で重要とされているにもかかわらず,そもそもの考え方が両立しない(整合性がとれない)というのが1つ目の批判。(もうひとつは,エンパワーという概念自体が,パワーやコントロールという意味を含むマスキュリンな概念という批判)

コミュニティ感覚エンパワメントについては,以前に高齢者の社会活動に関するデータで検討・検証したことがあるが,そこには線形的な関係ではなく,曲線的(curvilinear)な関係性が存在した。つまり,コミュニティ感覚が低い,あるいは高い場合には(例:人々のつながりが薄い,あるいは強いときには),エンパワメントの値も同様に低い水準にあるが,コミュニティ感覚が中程度の値をとったとき(つまり,コミュニティ感覚が醸成される過程において),最もエンパワメントの値が高かった(概略図)。

この結果は,コミュニティ感覚が低いときは,当然,個々人がエンパワーされた状況ではないが,実際のところ,コミュニティ感覚が強い(強すぎる)状況においても,エンパワーされた状況は期待できないということを意味している。それとは逆に,コミュニティが形成されつつコミュニティ感覚も高まっているその最中(プロセス)においてこそ,個々人のエンパワメントの向上が最も期待できるということが,曲線的な関係性に表れていたことになる。

心理的エンパワメント概念は,少なくとも日本のコミュニティ心理学領域では,定量的な研究によって知見が積み重なっていないため,現在,尺度開発を通して理解を深めている。今後は,上記のRiger(1993)の議論・仮説や過去に行った研究[1]も参考に,心理的エンパワメントとコミュニティ感覚の関係性について検討予定。

 

[1] Yasuda, T., Hughey, J., Peterson, N. A., Saito, Y., & Kubo, N. (2007). Exploring Community Organizing Sense of Community in Japan. The 115th Annual Convention of American Psychological Association (San Francisco, CA) [PDF]