何のためか,何を問うか:研究目的とリサーチクエスチョン
研究を行う上で,自らの問題意識が大切であることは言うまでもない。しかしいくら問題意識が大切だからと言って,“そんなことが分かってどうするのか(so what?)”あるいは“そんなことを研究して何になるのか(for what?)”と言われてしまうような研究では元も子もない[1]。そのようにならないために,まず研究の意義や目的つまり「何のために研究を行うのか」ということをしっかりと考えることが肝要である。
コミュニティ心理学における実践研究では,自らの研究関心だけに留まらない,別の何かが求められる。その何かとは即ち,「個人のエンパワメントにつなげるため」「コミュニティのウェルビーイングを向上させるため」といったコミュニティ心理学の価値基盤に沿ったビジョンであり,より良い個人やコミュニティの在り方を追求するための働きかけや変化・変革に向けたアクションの指針である。
研究(リサーチ)と行動(アクション)とが表裏一体であるのがコミュニティ心理学の特徴であるが,もしここで仮に,コミュニティ心理学研究の意義とは何か,質の高い研究とは何かを問うとすると,端的にそれを示すものは何か。ここで言う「良い研究」とは,流行のテーマを追究している,調査対象のサンプルが大きい,難易度の高いデータ分析法を使用している,といったことで決まるものではない。その研究において何を問うか,即ちリサーチクエスチョンの質が,その研究の質を端的に示す度量衡となる[2]。
コミュニティ心理学研究における質の高いリサーチクエスチョンとは,自らの問題意識を出発点として,それが研究という営みを通してデータによって可視化され,その情報をもとにしたアクションにつなげられるものである。なかでも,コミュニティ心理学研究では実証的基盤(empirical grounding)が重視されるが[3],これは,問題意識を研究の俎上に乗せ,対象となる問題の中身や解決法についての科学的根拠(evidence)を示すことに他ならない。その意味で,コミュニティ心理学における量的研究における究極的な目的は,エビデンスに基づく実践(evidence-based practice)を促すことであると言える。
[1] 南風原朝和・市川伸一・下山晴彦(2001)心理学研究法入門 東京大学出版会
[2] リサーチクエスチョン(research question)は文字通り,研究を行ううえでの疑問点であるため,解明課題とされることもある。また,理論的背景や実証的な先行研究などを参考に明らかにしようとする事柄に対して仮説(hypothesis)が設定されることもある。
[3] Dalton, J., Elias, M., & Wandersman (2001). Community Psychology: Linking individuals and communities (2nd ed.). Thomson Wadsworth. 笹尾敏明(訳) (2007)「コミュニティ心理学:個人とコミュニティを結ぶ実践人間科学」トムソンラーニング.
安田節之(印刷中) 量的研究からのアプローチ 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」 新曜社