評価の目的と評価者の役割

「評価」の目的は,①説明責任(アカウンタビリティ)を果たすため,②プログラムの改善・質向上のため,③プログラムの価値を判断するため(後の意思決定を含むこともある),④評価を通したプログラムおよび評価方法論の研究のための計4つに分類される(例:Patton, 1997)。

そして,評価目的に応じて,評価者の役割も変わってくる。①のアカウンタビリティ(説明責任)のための評価の場合,評価者は「査定・聞き取り役」であり,そこでは,綿密・完全な情報処理の知識・スキルが必要となる。②のプログラムの改善・質向上のための評価の場合,評価者は「コンサルタント役」となり,現場での問題点を把握する洞察力やコミュニケーションスキルなどが必要となる。③のプログラムの価値判断のための評価の場合,評価者は「審判役」となり,中立性の確保が必要となる。最後に④の評価研究のための場合,評価者は「研究者役」となり,評価の理論や方法論に関する知識や研究スキルなどが必要となる(参考:安田,2011,p. 43)。

もちろん4つの評価目的は,相互排他的(mutually exclusive)ではなく,補完的な関係にある。たとえば,②のプログラムの改善・質向上を図るためには,改善の根拠となるデータや情報が必要となり,①のアカウンタビリティの視点が欠かせなくなる。また,④の評価研究を行うにあたっては,評価研究の一般的な定義が社会調査の方法論を用いてプログラムの「価値」を推し量ることであることを鑑みても,③の価値判断の視点が重要となる。

そのようななか,「プログラム評価」に限定すると,プログラムの改善・質向上(②)と評価研究(④)に焦点を当てた評価が多いという現状がある。なかでも,多くが②に分類されることになる。その場合,評価者は「コンサルタント役」となる。一方,「評価者」の専門性や役割が変化してきていることは以前にも検討したとおりである。評価者は,これまでは方法論の専門家という立場で評価に携わるケースが多かったのに対して,プログラムの開発,実施,評価という総合的なサイクルにおいてその役割を果たすケースが増えてきたとされている。つまり,コンサルタント役というよりは,むしろ「オーガナイザー役」として組織開発のプロセスに関与・貢献することが期待されている(Lipsey & Cordray, 2000, p.36)。

以上の問題意識に基づくと,過去に実施された(日本の)プログラム評価において,評価者はどのような役割を果たしていたか,というリサーチクエスチョンが考えられる。CiNiiでのキーワード検索(”プログラム評価”)では,現在,計228編の入手可能な論文があり,そのなかで実際にデータに基づいた評価が行われていたものが計72編(※論文のみ)であった。これらの報告を「評価者の役割」ごとに分類・集計し,スタッフルビームによる「22の評価モデル」に基づいた分類・集計とあわせて検討し,評価のスタンスやアプローチに関する現状を調査中。