評価のキャパシティビルディング
評価のキャパシティビルディング(ECB:Evaluation Capacity Building)について研究を進めている。昨今では,プログラム評価の教育そのものを評価のキャパシティビルディングの観点から捉える試みもなされている(例:Preskill & Russ-Eft, 2016)。個人的にもECBをどのように評価の学び(学部・大学院)に統合できるかを検討している。以下は,ECBに関するノート。
ECBは「効果的,有用,専門的な評価実践(evaluation practice)について,個人・集団・組織の学びの助けとなるような教え方(teaching)と学び方(learning)の方策をデザインすること,そして導入すること(implementation)」(Preskill & Boyle, 2008, p. 444)と定義される。これは「個人レベルのコンピテンシー向上」から「組織レベルのキャパシティ向上」までを統合した定義である。評価キャパシティはそれ自体が構成概念であり,その内容や構成要因に関しては多様な議論が存在する。Preskill & Boyle(2008)によるECBは多重・学際的モデル(multi-disciplinary model)とされた。
キャパシティビルディングの主体が個人であろうが,集団・組織であろうが,最終目的は,自立発展的な評価の実践となる(Preskill & Boyle, 2008; Bourgeois & Cousins, 2013)。つまりキャパシティビルディングでは,評価活動を持続可能かつより良い方向に発展させられることが目指されるのである。
個人レベルのECBに関しては,これまでみてきたように,評価コンピテンシーの育成・開発との共通点が多いことが伺える。一方で,個人レベルを超え,集団・組織レベルが主体となるのがキャパシティビルディングの特徴であり,これは明らかに個人の評価コンピテンシーとは異なっている。そのため,個々の知識・態度・スキル・興味(i.e., KASI)として捉えられるコンピテンシーを土台としつつも,それが組織的な文脈で展開できるようにするのが,キャパシティビルディングの目的でもある。
したがってECBの実践には,組織レベルでの自立性,そして個人レベルでの主体的参加に基づいたアプローチが必要となるのである。これがECBの実践において,エンパワメント(empowerment)や参加型アクションリサーチ(Participatory Action Research)のアプローチが必要とされる所以である。
この点に着目し,ECBを多層的,システムレベルにおいて概念化したのがLabin, Duffy, Meyers, Wandersman, & Lesesne (2012)である。ここでは「ECBは個人の意欲・知識・スキルを向上させるための意図的なプロセスであり,同時に,評価を実践または利活用するための集団・組織の実行能力(ability)を強化するためのものである」と定義されている(Labin et al, 2012, p. 308)。先にみたPreskill & Boyle (2008)ではECBが多重・学際的モデル(multi-disciplinary model)のなかで捉えられた。つまり,多重・学際的モデルではECBがレベル・場面毎にどのように構成されるか,という構成要因に焦点が当てられていた。
一方,Labin et al. (2012)によるECBの統合モデル(integrative model)では,ECBが醸成される“プロセス”に焦点が当てられた。具体的に統合モデルでは,ECBのプロセスが,ロジックモデル(logic model)の枠組みで捉えられているところに特徴がある。つまり,ECBに関するインプットにあたる「ニーズ」(1. Need: why)に始まり,「アクティビティ」(2. Activities: what and how)そして「アウトカム」(3. Results: outcome)に終わるというキャパシティビルディングのプロセスが可視化されるのである(Labin et al.,2012,p. 309)。今後,より包括的なECBのモデルを検討するうえでは,多重・学際モデルによって定義された「ECB要因」と統合モデルによる「ECBプロセス」との総合・適正化が具体的に行われることが望ましいと言えよう。
引用
Bourgeois, I., & Cousins, J. B. (2013). Understanding Dimensions of Organizational Evaluation Capacity. American Journal of Evaluation, 34, 299-319.
Labin, S. N., Duffy, J. L., Meyers, D. C., Wandersman, A., & Lesesne, C. A. (2012). A research synthesis of the evaluation capacity building literature. American Journal of Evaluation, 33, 307-338.
Preskill, H., & Russ-Eft, D. (2016). Building Evaluation Capacity: Activities for teaching and training (2nd ed.). Sage: Los Angeles.
Preskill, H., & Boyle, S. (2008). A multidisciplinary model of Evaluation Capacity Building. American Journal of Evaluation, 29, 443-459.
参考
学部・大学院におけるプログラム評価の学び:体系化のための課題と展望 安田節之 慶應経営論集(渡辺直登教授退任記念特集号) (印刷中) 2016年