社会生態学と時間軸(ecology × time)から捉えたエンパワメント

エンパワメント¹は概念の理解が一筋縄ではいかない部分も多い²。コミュニティ心理学においてエンパワメントは,「自らの内なる力に自ら気づいてそれを引き出していくということ,その力が個人・グループ・コミュニティの3層で展開していくこと」,つまり個人の能力の顕在化・活用・社会化と捉えられている(三島,2007, p. 70)。これが社会生態学(social ecology)の視点から捉えたエンパワメントである。

一方,コミュニティ心理学では,時間軸からエンパワメントの概念化も行われている。それが,エンパワメントのプロセス(過程)とアウトカム(成果)である。簡潔に,エンパワメント・プロセス(empowerment process)とは,人々が社会参加(participation)などを通じて,継続的・発展的にエンパワーされている過程を意味しており,エンパワメント・アウトカム(empowerment outcome) とは,そのエンパワメント・プロセスを経て,個人や集団に生じるエンパワーされた状況(成果)を意味している(例:Rappaport, 1981; Speer & Hughey, 1995; Zimmerman, 2000)。両者は,似て非なる概念であるとされている。

どのように個人が自らの能力やスキルに気づき(顕在化),自らが所属する集団・グループでその能力やスキルを活かし(活用),さらにそれらを用いて地域コミュニティや社会といったより大きな文脈にどのように貢献していくのか(社会化)。そのプロセスとアウトカムについて,大学生の心理的エンパワメント(psychological empowerment)研究の一環として調査予定。

 

 

三島一郎(2007) エンパワメント 日本コミュニティ心理学会 編 コミュニティ心理学ハンドブック,東京大学出版会

Rappaport, J. (1981). In praise of paradox: A social policy of empowerment over prevention. American Journal of Community Psychology, 9, 1-25.

Speer, P., & Hughey, J. (1995). Community organizing: An ecological route to empowerment and power. American Journal of Community Psychology, 23, 729-748.

Zimmerman, M. A. (2000) Empowerment Theory: Psychological, Organizational and Community levels of analysis. In J. Rappaport & E. Seidman (Eds.) Handbook of Community Psychology (pp. 43-59). Kluwer Academic/Plenum Publishers.