プログラムの有効性
Efficacyとeffectivenessは共に「有効性」を表す用語であるため,同義的に用いられることが多い。しかし,予防科学(prevention science)の研究領域などでは両者は明確に区別されている。この違いをしっかりと理解するよう大学院時代に教えられた覚えがある。
具体的には,プログラムや社会政策が「最適条件(optimal conditions)で実施された場合」の有効性のことをefficacyと呼び,一方で「より現実的な条件(real-world conditions)で実施された場合」の有効性のことをeffectivenessと呼んでいる(Flay et al., 2005, p. 153)。
つまりefficacyは,プログラムがいわば「実験室でコントロールされたような条件の下で」どの程度の効果をあげられたかを示すものである。
一方のeffectivenessは,「実施文脈の影響(現場の状況)を踏まえた上で」,即ち実験者・介入実践者がコントロールできない(uncontrollable)要因の影響を踏まえた上で,プログラムがどの程度効果をあげたかを示すものである。
プログラムを実験的に行うことを「エフィカシー・トライアル(efficacy trial)」と呼ぶことがあるが,これは最適条件でのケース・スタディのことを指す。そして,効果が認められた場合,他のケースへの適用が模索される。一方,「エフェクティブネス・トライアル(effectiveness trial)」では,効果ありとされる(i.e., efficacious)プログラムが普遍的に,他の現実場面でも有効か否かが確かめられる(Flay, 1986)。
予防科学領域でプログラムの導入(implementation)に関する研究やトランスレーショナルリサーチ(translational research)などが行われ始めたのも,efficacyとeffectivenessの違いを認識してのことである。
また,プログラム評価領域ではeffectivenessを有効性とすることが多いため,両者を区別しなければならない場合には,efficacyを「効力」とするのも良いのではと考えている。
Flay, B. R. (1986). Efficacy and effectiveness trials (and other phases of research) in the development of health promotion programs. Preventive Medicine, 15, 451-474.
Flay, B. R. et al. (2005). Standards of evidence: Criteria for efficacy, effectiveness and dissemination. Prevention Science, 6, 151-175.
ディスカッション: ここで言う“最適条件”と“現実的な条件”とは何かを,Flay et al. (2005)およびFlay (1986)の文献を参考に,具体例を挙げて検討。