エビデンスに基づく実践とベストプラクティス
社会科学におけるエビデンスベースト(evidence-based)アプローチでは,ランダム化比較トライアル(RCT)などを中心としたフィールド実験の重要性が継続的に指摘され,プログラムの効果検証のスタンダードとなっている。
一方で,そのようなフィールド実験がプログラムの性質や実施背景などにより,かなわない場合も数多い。そのようなプログラムの評価はどのように行うべきか。そして,プログラムやサービスの質向上はどのようになされるべきか。
その際に参考になるアプローチの一つがベストプラクティス(best practice)である。もともと経営学の領域で発展した方法論であるが,各方面の研究や実践で活用されている。その反面,そもそもベストプラクティス・アプローチとは何か,が曖昧となっているケースもある。ベストプラクティス・アプローチは,優れた実践,つまりベストの中のベスト(best of the best)を理想型として,その実施過程や手法をベンチマーキングするところに特徴がある。
「ベンチマーキングはベスト・プラクティスを探求し,最高の経営を実現することである」(キャンプ,1989; 田尻訳,p. 24)という作業仮説(working definition)がある。これはビジネス領域の経営(マネジメント)だけの話ではなく,心理学諸領域を含むヒューマンサービスの領域でも応用可能である。
ここでは,どのプログラムに対してどのようなベンチマーキングを行うか,という目的や方法論が問われることになる。個人的にはプログラム評価の方法論の研究として継続的に学んでいるが,実際のところ,優れた取り組みや実践(つまりベストプラクティス)のゴールや方針を明確化し,利用者への効果を可視化し,プログラムの運営に関するロジックモデルを作成することなどは,ベンチマーキングのあり方と関係している部分が多いと考える。
さらに重要なのは,エビデンス・ベーストのアプローチを重視しつつも,そのようなアプローチがとれない場合にベストプラクティスのアプローチを追究するという点である。もし可能であるならば,両者の折衷案としてのアプローチを模索することも実用的な評価を考えるうえで大切である。
図はプログラム評価において,エビデンスに基づいた実践とベストプラクティスのアプローチの他,その折衷案となるアプローチをどのように目指すかをシンプルに示したものである。いずれのアプローチをとるにしても,評価のキャパシティビルディング(ECB: evaluation capacity building)は不可欠となる。今後はこの図を手掛かりに,特にベストプラクティスのベンチマーキングについて,研究を行っていく予定である。
参考:
Camp, R. C. (1989). Benchmarking: The search for industry bet practice that lead to superior performance. Productivity Press. (田尻正滋 訳 「ベンチマーキング」 PHP研究所)
Yasuda, T. (in press). Searching for the best of both worlds: Evidence-based and best practice approaches for delivering programs. Educational Studies (Institute for Educational Research and Service, International Christian Univ.), 59.