ウェルビーイングの追求
コミュニティと心理学。この一見,相容れない2つの言葉から成る「コミュニティ心理学」の虜になる実践者・研究者は多い。かく言う筆者もその一人であるが,ここでは,その独自性という切り口から,コミュニティ心理学の魅力を掘り下げていきたい。
コミュニティ心理学は,その名の通り,心理学の学問・実践体系である。そのため,まず「個人」を出発点として物事を考えていく。個人の視点をとことん追求していくと,究極的には“如何に生きるか”という問いに辿りつく。コミュニティ心理学は,個人がその人らしく生きる,より良く在る(“being well”)ことを可能にする社会的文脈(コンテクスト)とは何かを探究し,支援することを基本姿勢としている。したがって,コミュニティ心理学の実践研究では,ウェルビーイング(well-being)の追求がまず前提として存在する。
心理学と名の付くほぼすべての学問が人の心を体系的に模索するが,ことコミュニティ心理学においては,個人がコミュニティという共同体・共同意識のなかでどのように発達・成長・適応そして自己実現していくかを探究するアプローチをとる。そのため,後述するエンパワメントやコミュニティ感覚といった,個人とコミュニティとの接点や交互作用に関する構成概念を軸とした研究が行われる。ここでは,米国のコミュニティ心理学のテキストCommunity Psychology:Linking individuals and communities[1]のサブタイトルにもあるように,人とコミュニティとをどのようにつなぐか(“linking”)に焦点が当てられる。このように考えると,「個人が多様なコミュニティをどのように活かし,そして逆に活かされ,自分に合った生き方そしてウェルビーイングを追求するのか」という問いが,コミュニティ心理学における実践研究の基盤となるのである。
[1] Dalton, J., Elias, M., & Wandersman (2001). Community Psychology: Linking individuals and communities (2nd ed.). Thomson Wadsworth. 笹尾敏明(訳) (2007)「コミュニティ心理学:個人とコミュニティを結ぶ実践人間科学」トムソンラーニング.
安田節之(印刷予定) コミュニティ心理学の独自性 コミュニティ心理学会研究委員会編 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」 新曜社