システム変数の重要性

コミュニティ心理学では,個人をその人が置かれた環境に適応させるようなアプローチはとらない。なぜなら,ここで言う個人とは,多くの場合,問題を抱えた利用者やクライエントや社会的な弱者といった“ディスエンパワー(disempower)”された人々であり,個人が置かれた環境は,不適切で機能不全を起こしたシステムであるからである。

より具体的にコミュニティ心理学は,個人の不適応を自己責任あるいは自助努力が足りないという理由で個人のせいにして,その人が置かれている環境に無理やり適応させようとするアプローチはとらない。すなわち,個人の持つ心理的資源(例:自尊感情やレジリエンス)と引き換えに,集団やコミュニティといった社会的文脈に適応させようと試みるアプローチはとらないということである。

これは,端的には,“犠牲者非難(victim blaming)”[1]をしないことを意味している。コミュニティ心理学では,その人の本来の生き方や生活に近づけるように,逆に,環境やシステムに働きかけていくアプローチをとる。したがって,実践研究では,質的・量的な方法論を問わず,いかにして“システムレベル”の概念を“変数”として探究し,その働きや影響に関する情報を収集することが,犠牲者非難を回避し,その個人が置かれた環境やシステムに対して,根拠に基づくアクション(行動)を起こすための第一歩となるのである。

[1] Ryan, W. (1976). Blaming the Victim. Random House, Inc. (Vintage Books Edition)

安田節之(2016,出版予定) コミュニティ心理学の独自性  コミュニティ心理学会 研究委員会 編 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」 新曜社