アダプタビリティと予防要因(保護要因・Protective Factor)

心理的エンパワメントについて,特に心理的エンパワメントとは何か(what is)を超えて,何のためのエンパワメントか(what is for)について考えるうえでは,レジリエンス研究やキャリア研究のなかで議論されているアダプタビリティ(adaptability)との関連性・共通点を検討することが有用である。

レジリエンス研究のなかでは,逆境やネガティブなライフイベントのなかでの(を経験しての)人間発達や環境適応においては,それを促進する「アダプティブ・システム(Adaptive System)」が必要とされている。したがって,各発達段階におけるアダプティブ・システムを明らかにすることが,前提として逆境や否定的な状況に置かれている,個人の支援(いわばライフキャリア支援)につながると考えられている(e.g., Masten, 2014)。

一方,キャリア研究のなかでも,アダプタビリティの重要性が指摘されている。そもそもアダプタビリティとは,個人が環境・状況・文脈にフィットすることであり(c.f., 人と環境の適合),かつそれが無理なく出来る(without great difficulty)ことであるとされている(Savickas, 1997, p. 254)。そのうえで,キャリア・アダプタビリティとは「予測可能な(predictable)タスクに対して準備を行い,職業役割(work role)に主体的に参加し,そして仕事や働く状況・環境が変化するなかで,予測不可能な(unpredictable)調整をできる準備性(readiness)である」とされている(Savickas, 1997, p. 254)。

つまり,キャリア研究における「キャリア・アダプタビリティ」とは,主に個人内に存在する資源(c.f., 心理的資源)のことであり,それを促進する,つまりキャリア・アダプタビリティを高めることが個人レベルの介入(individual-level intervention)のゴール(アウトカム)の1つとなる(e.g., 個人へのカウンセリング)。またレジリエンス研究では,個人の発達段階(i.e., developmental stages)およびその個人を取り巻く人間・社会環境(i.e., social-ecological systems)のそれぞれにおいて「アダプティブ・システム」が必要であるとされている(e.g., システム・レベルにおける介入)。アダプティブ・システムとは,すなわち,自然発生的なものや意図的に(=支援ニーズに基づき)開発されたプログラムのことを指す。

最後に,コミュニティ心理学領域で議論される予防科学(prevention science)の視点からは,これらは「protective factor(予防要因・保護要因)」として捉えられており,「risk factor(リスク要因・危険要因)」と合わせてモデル化されている。一般に,予防プログラムを考えるうえで,プログラムの内容や構造は比較的シンプルで,個人レベル(micro-level)の「リスク要因」を軽減(低減)し,「予防要因」を向上することが究極的なゴールで,そのために,組織(meso-level)やコミュニティ・社会(macro-level)のリスク要因を減らし,予防要因を増やすというモデルとなっている。

 

Masten, A. (2014). Ordinary Magic: Resilience in Development  Guilford press.

Savickas, M. (1997). Career Adaptability: An integrative construct for life-span, life-space theory. Career Development Quarterly, 45, p. 247-259.