アクション志向

コミュニティ心理学が依って立つ概念やアプローチは,従来の心理学とどこがどう違うのか。前述のとおり,行動の科学とされる現代の心理学では,そもそも行動の源泉となる価値(観)については議論されないのが一般的である。その意味で,従来の心理学が対象とする概念はいわば価値中立的(value-free)であり,個人の心理状況・特性を構造化することが目的である(例:自尊感情)。

一方,コミュニティ心理学では,個人や社会のウェルビーイングの追求という究極的な目的に向けて,価値依存的(value-laden)となる。先のエンパワメントの定義をみても分かるように,よりアクション志向の強い概念を研究対象とするところに特徴がある。つまり,人間の心(“内側”)を探究しつつも,それが個人の内面だけに留まらず,社会やコミュニティといった“外側”との接点や関係性の改善・向上につなげることがコミュニティ心理学のミッションなのである。再度,エンパワメントを例にとれば,その考え方(エンパワメント概念)を「手段」として活用し,人とコミュニティをつなげるためのアクションという「目的」を達成することが肝要となるのである。コミュニティ心理学がアクション志向(action-oriented)の強い学問・実践体系とされる所以はここにある[1]

 

[1] 米国のコミュニティ心理学会は,その名称をSociety for Community Research and Action(SRCA)と言う。米国心理学会(American Psychological Association)のDivision 27に所属しつつも,独自のアクショ ン志向の強い研究・実践アプローチを基本としている。

 

安田節之(印刷予定) コミュニティ心理学の独自性 コミュニティ心理学会研究委員会 編 「コミュニティ心理学:実践研究からのアプローチ(ワードマップ)」